1型糖尿病の血糖コントロールが難しい理由
刻々と変動する血糖値についていけない!
健常者(糖尿病でない方)の血糖値は様々な血糖値の変動要因があるにも関わらず、見事に70~140mg/dLという狭い範囲に維持されています。血糖値を変動させる要因としては、インスリンはもちろん、インスリン拮抗ホルモン(グルカゴン、コルチゾールなどインスリンとは逆に血糖値を上げます)、自律神経機能、食事や運動等の生活習慣など様々なものがあります。健常者においては、これらによる血糖変動があれば、速やかにインスリン分泌量を調整し常に上記の範囲に血糖値を保ちます。
1型糖尿病では、1日4回の頻回インスリン注射療法を行う事が多いですが、4回の皮下注射ではそこまで細かなインスリン量の調整は難しく、血糖値の変動が大きくなってしまう場合が多いのです。
インスリンだけでなく、グルカゴンの分泌にも異常が!
1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が破壊されインスリン分泌が枯渇する病気です。しかし、同じく膵臓のα細胞からでるグルカゴンの分泌にも異常をきたします。グルカゴンは、体内で最も血糖値を上げる効果の強いホルモンであり、1型糖尿病では、適切なタイミングでこのグルカゴンを分泌できなくなると言われています。
暁現象とソモジー効果
人間の体内では、起床後活動していくことに備え、成長ホルモンやコルチゾールなどのインスリン拮抗ホルモンの血中濃度が早朝4時頃から上昇します。
1型糖尿病においては、インスリン拮抗ホルモンに対応できず早朝にかけて高血糖となる場合が多くなります。これを暁現象と言います。
また、夜間3時頃というのは、生理的にも最も血糖値の低い時間帯です。基礎インスリンの注射量が多いと、この時間帯に低血糖を起こす事があり、それに驚いた体が過剰に血糖値を上げようと努力し、早朝の高血糖をきたすことがあります。このような反跳性高血糖をソモジー効果と言います。
1型糖尿病患者さんで、早朝の高血糖があった場合、この両者を鑑別していく必要があります。そのために深夜3時に血糖測定してもらう場合もあります。
その他
インスリン注射を同じ場所に繰り返すと皮膚が硬くなったり皮下にしこりができてインスリンの吸収が悪くなったりする場合があります。また注射したインスリンに対する抗体ができて、血糖不安定の原因となる事があります。女性では月経前に高血糖となる方もいます。スポーツに際しては、運動中、運動後も低血糖を起こすことがあります。
これら様々なことが1型糖尿病の血糖不安定の原因となりますので、定期の診察時に患者さんと主治医の聞でその原因を議論し突き止め、対応していく必要があるのです。
2017/11/28 掲載 糖尿病だけじゃない?!血糖値は感情もコントロールしていた!
「血糖値」と聞くと、誰もが連想するのは「糖尿病」ではないでしょうか。実は最近の研究で、糖尿病だけでなく「こころ=感情」の変化と血糖値が深く関係していることが分かってきました。今回は、今までと違った視点から「血糖値」について考えてみたいと思います。
私たちの身体は、食後は血糖値が上昇しますが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによって血糖値を正常な範囲まで下げています。逆に長時間食事を摂らずにいると、血糖はどんどん下がってくるので、今度は血糖値を上げるホルモンが分泌されます。
こうして、私たちの身体は一定以上に血糖値を上げ過ぎたり、下げ過ぎたりしない仕組みになっているのです。
特に血糖値が下がり過ぎると「低血糖」という状態になり、重篤な場合は昏睡状態に陥ることもあります。
このため、食べ過ぎた時のために血糖値を下げるホルモンは唯一インスリンのみですが、飢餓に対応するための血糖値を上げるホルモンはグルカゴンやアドレナリン、ノルアドレナリンのほかにも数種類のホルモンを分泌する機能が備わっています。それだけ、人類を存続させるために血糖値を上げる機能が重要だったということですね。
そして、低血糖になると分泌量が増えるアドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンが、こころ=感情の変化と大きく関わっているホルモンなのです。これらのホルモンは神経伝達物質と呼ばれ、過剰に分泌されるとイライラや怒りっぽくなったり、不安感が増大するといわれています。
「食後高血糖」が「低血糖」を招くワケ
反応性低血糖は、食後に血糖が上昇しインスリンが分泌されるタイミングが通常の人より遅い場合に起こりやすいといわれます。特に血糖を上昇させる炭水化物や甘いものを食べ過ぎた時は、血糖値が通常以上に高い「食後高血糖」の状態を起こしやすくなります。そして、インスリンの分泌が遅れてやってくる分、通常以上の血糖を下げようと過剰にインスリンが分泌された結果、血糖の急降下が起こります。この血糖値のアップダウンが激しいと、実際の血糖値は基準値内であっても、ピーク時との落差が激しいため、脳が血糖値が下がり過ぎたと勘違いしてしまうのです。
お腹いっぱい食べたはずなのに、直ぐにお腹が空いていつも以上に甘いものが欲しくなった経験はありませんか?空腹を感じるというのは、血糖が下がってきたというサインなのですが、実際には血糖値がそれほど下がっていなくても、急降下したことによる脳の勘違いから空腹を感じるのです。
そして、お腹が空いた時、皆さんも一度は経験があると思いますが、イライラしたり怒りっぽくなったりしませんか?それは、血糖値を上げるホルモンの作用かもしれません。
低血糖により、アドレナリンやノルアドレナリンが分泌
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イライラや怒りっぽくなったり、不安感が増大
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これらを解消しようと甘いものが欲しくなる
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アドレナリンなどの作用で血糖値が急上昇する
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インスリンが過剰に分泌され再び血糖値が急降下する
と、悪循環に陥ることでインスリンを分泌する膵臓も疲れ、いずれはインスリンの分泌量が減って糖尿病へ移行するといわれているのです。また、ストレスを感じるとアドレナリンやノルアドレナリンの分泌量が増えるため、ストレスそのものも高血糖の原因になるのです。
低血糖は誰にでも起こる?! (※1)
通常、血糖のコントロールが正常であれば、血糖値が下がり過ぎることはありません。糖質の摂り過ぎやインスリン分泌の遅れやインスリンの感受性が低下するインスリン抵抗性や過度なダイエットで筋肉量が低下しているなど、様々な要因が重なり食後高血糖とその後の血糖急降下は起こります。
ですが、食後の短時間の間に起きる症状なので、健康診断で測定される空腹時血糖では正常値が出ることも多く、見つけにくいといわれています。
低血糖で表れる症状はこころの病気から表れる症状と似ているものも多く、この2つの関連性の研究も進んでいます。
また、食後高血糖が継続することにより、動脈硬化など様々な疾患のリスクが上がることもわかってきています。
食事の摂り方や選び方によって、誰にでも起こる可能性があるので、日頃から下記のような注意が必要です。
「食後高血糖」を防ぐ食べ方
- ・欠食は次の食事の後、血糖値が急激に上がりやすくなるため、1日3食欠食しないで食べるようにする。
- ・糖質の吸収を抑える食物繊維の多い野菜などから食べる
- ・血糖値が急激に上がりやすい白米や食パンなど 精製された糖質より、玄米や全粒粉のパンなど未精製のものを選ぶようにする
(GI値が低い ものを選ぶようにする) - ・糖質の多いメニューを重ねて摂らない
- ・間食、清涼飲料水を摂り過ぎない
また、
- ・ビタミン、ミネラル不足
- ・アルコール、コーヒー、タバコの過剰な摂取
- ・過度のストレス
によって悪化するとも言われています。 (※2)
今回、感情をコントロールする栄養について調べたところ、これ以外にもたんぱく質、nー3系脂肪酸、ビタミンB群、ナイアシン、鉄、カルシウム、亜鉛・・など様々な栄養素が関係していることが分かりかりました。
食事以外にも、運動がストレスやイライラの解消にも良いという研究結果も増えてきているようです。
生活習慣病とこころの健康=感情のコントロール。これからますます研究が進み、食べ物の力でどちらも改善していけたらいいなと思います。
【参考資料】
- ※1 NHKスペシャル「血糖値スパイク」が危ない
//www.nhk.or.jp/special/kettouchi/result/index.html - ※2 砂糖をやめればうつにならない 生田哲 角川書店
【その他参考文献】
- 病気がみえるvol.3 糖尿病・代謝・分泌 メディックメディア
- セミナー糖尿病アドバイス 田中逸 日本医事新報社
- 「血糖値スパイク」心の不調を起こす 溝口徹 青春出版社
- 血糖値スパイクから身を守れ! NHKスペシャル取材班 宝島社
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